敢えて握らず

合気道の稽古指導をさせて頂いておりますと、多くのビギナーの方が腕力で受けの腕を小手先で引っ張ったり上から体重を乗せて押しつぶしたりと言った動作をされる事に気付かされます。

中には上級者になられても尚、小手先で引っ張るどころか正中線を守らずひっぱり引きずり回す様な動作を続けられ腕力勝負をされておられる方も見受けられます。

これらの動作は早い内に矯正した方が良いと思うのですが、最も良いのは最初から引っ張る動作を行わせない様にする事では無いかと考えております。

そのため合気道「眞武館」では初心者にも一教押え込み等で受けの腕は敢えて手の平で握らず、手の甲や手刀、掌底等で結びを入れて技を行うように指導しております。

初心者の方々には当然結びを入れることは非常に難しい事ですが、例えば正面打ち一教では、受けの手刀を手の平で受けるのでは無く、抜刀動作による、あるいは杖回しの動作による理合いで手の甲側で結びを入れて制する事を指導いたしております。つまり手の平を晒して正面打ちの受けの手刀を受けに行く事を禁じております。

これは門川師範から以前に私自身がご指導頂いた事でもあるのですが、短刀や割れたビール瓶等の刃物を手に正面打ちをしてくる相手に手の平を晒すと言う事は自身の大事な急所である手首の動脈を晒す事であり、これでは一瞬で勝負がつき、勝負が付くと言う事は自身の命を失う事につながると言う教えであり、また、動物は身を守る時は必ず身体の外側の固い骨で防御を行い、大事な内臓や血管の動脈等の急所がある身体の内側は隠すのが本来であると言う教えを同時にビギナーの方々にお教え致しております。

このような教えから、例えば戦国時代の甲冑等には、手の甲側で刀等を受ける為に手甲が付き物であると言う事もお教えします。このようなことからも自分の大事な急所を晒して手の平で受けの手刀を受けに行く動作を諌めます。

先ずはこのような理合いをお教えして、手の平で受けの手刀を迎えに行く動作を戒めて最初から敢えて握らない技の手法をお教えします。

また、このとき手の甲側で単に受けの手刀を叩き落すのでは無く、触れた部分で和合し、結びを入れて受けを自己の入り身転換動作に導き巻き込む事で技につなげます。この時、気合わせ、気結び、気納めの理合いが大切であり、受けと和合する気の流れの動きが重要になります。合気道は音無しの剣です。これは「気結びの太刀」の教えでも有り、「気結びの太刀」で身につけた受けの動きを見切り、気合わせ、気結びして和合し、一体となって入り身転換する研鑚が相半身正面打ち一教押え込みの醍醐味です。

受けの正面打ちを受けて手の甲側が痛んだり、受けの手刀に痛みが走るようでは気結びでは有りません。それはぶつかりです。また、腕押さえを施す時も上から体重をかけなければ受けが崩れないのはそれまでに結んだ腕で上手く導き崩せていないので無理やり押し倒さなければならなくなっているのです。小手先で引っ張り崩すのでは無く、結んで導き崩す事が肝要です。

右手の甲で受けの右手刀を制したのであればその瞬間に結んで受けの右腕を導き、右ひじを左手刀で斬り上げ、体の転換に巻き込んでの斬り下げ動作で崩し倒せればそこにぶつかり合いは無く、気結びの太刀と同じく音無しの剣の理合いの相半身正面打ち一教腕押さえが完成します。入り身転換での自己の円転が縦の円を使えば表の一教、横の円を使えば裏の一教となりますが、縦と横の円の間には無限の円転の軌跡を描けます。

いずれの角度の円転で入り身転換するかはその場その場の状況や相手の状況にも拠りますので技は表と裏だけでは無く無限になります。

正中線を守り、入り身転換法で技を施すとき、敢えて握らずの稽古法は初心者の時代から身につけたい稽古法であり、一度力ずくで引っ張る手法を身につけてしまった場合はそれを矯正するのには多くの時間と労力が必要となります。

これが眞武館で基本動作の段階から「敢えて握らず」をお教えする理由です。

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